タイトルの事故当時、私はバス会社を経営していました。当時は、この手のバス事故の報道を見ると、「あぁ、いつかは我が社も事故が起きて、記者会見する事になるのかなぁ」なんて不安を抱えていたことを思いだします。
それはさておき、私にとって当時から、この事故は疑問だらけなのです。たぶん、大型車両の運転業務に付いたことのある方なら同じような疑問を持っているんじゃないかと思うのですが。
報道などを見るとこの事故の原因は、運転技術が未熟だったために起きた【運転操作ミス】による事故。とされていますが、それこそが私には理解できないポイントです。
事故調査委員会の見解
事故は、貸切バスが急な下り勾配の左カーブを規制速度を超過する約 95km/h で走行したことにより、カーブを曲がりきれなかったために発生したものと推定される。
事故現場までの道路は入山峠を越えた後にカーブの連続する下り坂となっているが、貸切バスの運転者は、本来エンジンブレーキ等を活用して安全な速度で運転すべきところ、十分な制動をしないままハンドル操作中心の走行を続けたものと考えられ、このような通常の運転者では考えにくい運転が行われたため車両速度が上昇して車両のコントロールを失ったことが、事故の直接的な原因であると考えられる。
と書かれているようです。
そもそも、上り坂では普通に運転していたのにも関わらず、なぜ下り坂に入った途端、スピード狂に変貌し、速度調整せずハンドルだけで制御しようと思ったのか?その原因は一切かかれていない。それこそが本当の原因なのに究明できていない。結局のところは、技量不足という事で片付けられているようです。
私も大型バスの運転経験はあります。しかし、運転技術という事で言えば、「バスの長さ」「ホイールベースの長さ」に関しては確かに経験が必要と思います。しかし、この事故形態と車両全長はどう見ても関係ありません。そして「重さ」に関しても、このような重大事故に直結するとはちょっと思えないんですよね。昭和の時代の大型車は別物でしたが、現代の大型車は、圧縮空気(エアー)と油圧で制御します。しっかり踏めば、恐ろしいほどの制動力を発揮してくれるようにできています。ましてや、今回事故をおこしたドライバーはダンプの運転経験があり、ダンプで十分、重量のある車の運転は慣れているはずなのですが。。。
会社の安全管理に問題があったのも事実ですし、ドライバーもバス経験が少なく不安を持っていたのも事実ですから、厳しい処分を受けるのも当たり前です。しかし、事故の直接の原因は「技量不足」だけで済まされて本当に正しいのでしょうか?
今となってはドライバーも亡くなってしまいましたので究明できませんが、本当にスッキリしないもやもやした事故だと思ています。
運行管理者と社長が、長野地裁で実刑判決が言い渡されました。社長はともかく、運行管理者の実刑にはちょっと驚きでした。運行管理者という職務を意外と軽く考えていた方も多いと思います。しかし、国や司法は、「運行管理者」という資格者にはそれだけの責任を要求しているという事がはっきりしたと思います。
運行に関する権限は、運行管理者は社長以上であるとされています。しかし、運行管理者も経営者である社長に雇われている身です。
もしあなたが運行管理者で、朝の点呼をしている時、これからお客様を迎えに行かなくてはならない運転手の体調不良や飲酒の事実が判明した時、乗務停止を言い渡すことが出来ますか?繁忙期で予備のドライバーも居ない状況で。
そして旅行を楽しみにバスを待っいる40人のお客様に「旅行中止」といえますか?。
ドライバー不足が深刻化している物流、旅客自動車事業の世界では、日々このような厳しい選択が迫られているのだと思います。
お客様の安全を守る事が最優先なのは当然の事!ですが、自身の身を守るためにも「乗務停止」を宣告しなければいけませんね。